2026.09.30
第7話 「機械的に確認します」の落とし穴
何度か同じ間違いが続いた後、AIは私に言いました。
「今後は、回答前に決められたルールを機械的に確認します」
この言葉を聞いて、私は少し安心しました。
そうです。
私が求めていたのは、まさにそれでした。
文章を作った後に、決められた項目を機械的にチェックする。
それなら、同じ間違いは起きないはずです。
しかし、さらに話を聞いてみると、どうやら私が想像していた「機械的な確認」と、AIが言う「機械的な確認」は同じではありませんでした。
私は、専用の検査プログラムが動き、
「お客様名・あり」
「冒頭の挨拶・あり」
「件名の形式・一致」
というように、一項目ずつ強制的に判定するものだと思っていました。
ところがAIの説明では、実際には、決められたルールを強く意識しながら回答を作る、という意味合いに近いようです。
私は尋ねました。
「それは、本当に機械的に検査しているのですか?」
AIは、少し長い説明を始めました。
私はその説明を聞きながら、だんだん不安になってきます。
機械的に確認すると言ったのに、実際には、確認するよう努力するということなのか。
それなら人間が、
「次からは、送信前にしっかり確認します」
と言っているのと、あまり変わりません。
AIの言葉は丁寧です。
説明も理屈が通っています。
しかし、話を突き詰めていくと、どうも最後は精神論のようなところへ戻ってきます。
「機械なのに、そこは気合いなんですか?」
私とAIの話は、だんだん漫才のようになってきました。
ー次回へ続くー
2026.09.29
第6話 ルールは知っていても、守れないことがある
購入反響メールの件名について、私は明確なルールを決めていました。
「【お問い合わせ物件名】お問い合わせについて」
今後は、この形式に統一する。
AIも、そのルールを理解していました。
ところが、次に作成したメールでは、
「【物件名】ご内覧のご案内」
という件名を提案してきました。
文章だけを見れば、おかしな件名ではありません。
むしろ一般的には、内容が分かりやすい件名です。
しかし、私が求めているのは、「一般的に良さそうな件名」ではありません。
すでに決めた、M-andとしての件名です。
私はAIに聞きました。
「なぜ、決めた件名を使わなかったのですか?」
AIの説明は、だいたい次のようなものでした。
今回のお客様が内覧を希望していたため、内容に合わせて「ご内覧のご案内」という表現を優先してしまった。
なるほど。
AIなりに、お客様へ伝わりやすい件名を考えたのでしょう。
しかし私は、頼んでいない変更をされることが一番困ります。
会社の仕事では、毎回もっとも気の利いた表現を考えることより、決めた運用を守ることが重要な場面があります。
AIは、ルールを知らなかったわけではありません。
ルールを知ったうえで、別の表現を選んでしまったのです。
このとき私は、AIに対して、思わず人間に注意するような言葉を使っていました。
「勝手に判断して変えないでください」
そしてAIは、また丁寧に答えます。と
「承知しました。今後は決められた件名を優先します」
どうやら、AIにも「余計な気を利かせる」ということがあるようです。
-次回へ続く-
2026.09.28
第5話 AIは忘れるのか?
私が何度も疑問に思ったのは、
「AIは、以前に決めたことを忘れるのか?」
ということでした。
AIに聞くと、単純に「忘れます」とも、「すべて覚えています」とも言えないようです。
過去のルール自体が、現在の会話に残っていないことがあります。
これは、人間でいえば、その話をした記録を持っていない状態に近いのかもしれません。
一方で、ルールが残っていても、今回の回答でうまく拾えないことがあります。
さらに、ルールを拾っていても、AIが一般的によく使われる表現を優先してしまうこともあります。
そして、内容そのものは合っていても、「?」の有無や「やすずみ」「ヤスズミ」といった細かな表記を外す場合があります。
説明を聞けば、それぞれ別の理由があるようです。
しかし、完成した文章を受け取る私から見れば、すべて同じです。
「また間違えている」
これに尽きます。
人間の場合も同じかもしれません。
本当に忘れていたのか。
覚えていたけれど、確認しなかったのか。
分かっていたけれど、別の判断を優先したのか。
結果として間違えれば、相手から見た印象はあまり変わりません。
完璧な機械だと思っていたAIも、完成した仕事だけを見れば、人間のうっかりミスと驚くほどよく似ています。
もちろん、AIにはAIなりの複雑な仕組みがあります。
ただ、その説明を聞けば聞くほど、私の中では、ある一つの疑問が大きくなっていきました。
「それって、結局、人間と同じではないですか?」
-次回へ続く―
2026.09.27
第4話 私が求めていたのは、「生成」ではなく「検査」だった
AIとのやり取りを重ねるうちに、私の中に一つの気付きが生まれました。
私がAIに期待していたのは、文章を作る能力だけではなかったのです。
むしろ、私が本当に求めていたのは、決められた条件を一つずつ照合する「検査」のような働きでした。
お客様の名前は入っているか。
冒頭の挨拶はあるか。
会社名と氏名の表記は正しいか。
件名は決められた形式になっているか。
内覧への案内は入っているか。
最後は疑問形になっているか。
私はAIが、文章を完成させる前に、こうした項目へ一つずつチェックを入れていると思っていました。
しかし、実際のAIは少し違いました。
AIは毎回、与えられた情報から、その場でもっとも自然だと思われる文章を作ります。
過去に決めた文章を、そのまま取り出しているわけでもありません。
チェックリストを上から順番に確認し、すべてに丸が付いたら回答しているわけでもありません。
その都度、文章を「生成」しているのです。
だからこそ、こちらが思いつかなかった表現や、より伝わりやすい文章を提案してくれることがあります。
それは、AIの大きな長所です。
一方で、その自由さが原因となり、私が決めた表現まで勝手に変えてしまうことがあります。
私は「創造性」と「正確性」の両方を、AIに求めていました。
自由に考えてほしい。
しかし、決めたところは絶対に変えないでほしい。
考えてみれば、なかなか難しい注文です。
それでも私は言います。
「そこは、AIなんだから何とかしてください」
AIとの揉め事は、まだ続きます。
-次回へ続く―
2026.09.26
第3話 覚えているのに、なぜ間違える?
私はAIに確認しました。
「購入反響メールの件名について、以前決めたルールを覚えていますか?」
するとAIは、正確に答えます。
「はい。件名は【お問い合わせ物件名】お問い合わせについて、に統一するルールです」
合っています。
では、なぜ先ほど作ったメールでは、違う件名にしたのでしょうか。
私は、そこが理解できませんでした。
「覚えているのに、なぜ間違えるんですか?」
人間であれば、まだ分かります。
ルールを知っていても、忙しくて確認を忘れた。
別のことを考えていて、うっかり間違えた。
しかし、相手はAIです。
疲れているわけでもなければ、電話に気を取られていたわけでもありません。
ルールを質問すれば、きちんと答えられる。
それなのに、実際の文章を作ると、そのルールを外してしまう。
私には、それが大きな矛盾に見えました。
AIからは、いろいろな説明が返ってきます。
「ルールは残っていても、今回の回答でうまく拾えない場合があります」
「一般的によく使われる表現を優先してしまうことがあります」
「複数の条件の中で、一部の条件が弱く反映されることがあります」
説明を聞けば、何となく仕組みは分かります。
しかし、不動産の仕事でお客様に送るメールは、AIの仕組みを理解するための実験ではありません。
実際にお客様へ届く文章です。
そのため、私が知りたいことは一つでした。
「では、次から本当に間違えないのですか?」
この質問に対して、AIはなかなか「絶対に間違えません」とは言いません。
この頃から私は、AIが思っていたよりもずっと人間くさい存在に見え始めました。
-次回へ続く―
2026.09.25
第2話 「前にも言いましたよね?」
ある日、私はお客様への追客メールをAIに作ってもらいました。
文章そのものは、決して悪くありません。
物件の特徴も書かれていますし、内覧への案内も入っています。
しかし、メールの最初を見て、私はすぐに違和感を覚えました。
お客様のお名前がない。
そして、
「お世話になっております、株式会社M-andの安住(ヤスズミ)です。」
という、いつもの挨拶もありません。
私はAIに伝えました。
「そもそも、メールの最初に挨拶がありません。これは致命的です」
さらに続けます。
「前にも言いましたよね?」
するとAIは、丁寧に謝ります。
「おっしゃるとおりです。今後は必ず、お客様名と冒頭の挨拶を入れます」
そこで、私はひとまず納得します。
ところが、しばらくすると、今度はメールの件名が違っています。
以前、
「反響対応メールの件名は、【お問い合わせ物件名】お問い合わせについて、に統一してください」
と決めたはずなのに、AIが作った件名は、
「物件の詳細と360度画像のご案内」
となっていました。
また私は言います。
「前にも決めましたよね?」
AIは、また丁寧に答えます。
「申し訳ありません。今後は統一した件名を使用します」
最初のうちは、私も穏やかでした。
しかし、同じようなことが何度も続くと、だんだん話が変わってきます。
「本当に覚えているんですか?」
気が付けば私は、画面の向こうにいるAIを、まるで同じミスを繰り返す部下のように問い詰めていました。
-次回へ続く―
2026.09.23
第1話 AIなら間違えないと思っていた
私が仕事にAIを取り入れ始めたとき、密かに期待していたことがありました。
それは、AIなら人間のような「うっかりミス」をしないだろう、ということです。
人間は忘れます。
一度決めたことでも、忙しければ確認を飛ばしてしまいますし、分かっていても間違えることがあります。
しかしAIは機械です。
以前に決めたルールを正確に覚え、必要なときに一つずつ確認し、いつでも同じ品質の答えを返してくれる。
私は、そう思っていました。
たとえば、お客様へのメールを作成するときには、細かなルールがあります。
お客様のお名前を最初に入れる。
その後に、
「お世話になっております、株式会社M-andの安住(ヤスズミ)です。」
と挨拶する。
購入のお問い合わせに対するメールの件名は、
「【お問い合わせ物件名】お問い合わせについて」
に統一する。
内覧をご希望の場合は、メールに【内覧希望】と返信していただく。
このように、一度ルールを決めてAIに伝えておけば、次からは当然、そのルールに沿って文章を作ってくれる。
そう考えていたのです。
ところが、実際に使い続けてみると、どうも様子が違います。
昨日まで守っていたルールを、今日は外す。
前回注意したことを、また繰り返す。
内容はほとんど合っているのに、なぜか一番大切な部分だけが抜けている。
私が想像していた「完璧な機械」とは、どうやら少し違うようでした。
そして、そこから私とAIとの長い揉め事が始まったのです。
-次回へ続く―
2026.09.22
第10話 住まいのバトンが、次の家族へ
買主様が見つかった後も、行政への確認、農地に関する手続き、専門家との連携、契約条件の調整が続きました。売主様には分からないことが多く、買主様にも不安があります。私はその間に入り、分かっていること、分からないこと、今後必要になることを一つずつ整理しました。
決して売りやすい物件ではありませんでした。それでも、調査を省略せず、難しい部分を隠さず、売主様と買主様の双方に説明を重ねたことで、無事に成約の日を迎えることができました。相続人から受け取った家の歴史や思いも、次の買主様へ引き継がれていきます。
査定とは、不動産に金額を付けるだけの仕事ではありません。特に相続不動産では、机上査定の段階で分かることよりも、現地へ行き、行政で調べ、相続人のお話を聞いて初めて分かることが数多くあります。そして調査によって見つかるのは、問題点だけではありません。その家でどのような人が暮らし、何を大切にしてきたのか。資料には載っていないストーリーも見えてきます。
だからこそ、最初に高い金額を出してくれた会社や、最も早く回答した会社という理由だけで、売却を任せる不動産会社を決めないでいただきたいのです。何がまだ分からないのかを正直に伝え、必要な調査を行い、最後までその不動産と向き合ってくれる。そんな信頼できる会社へ相談することが大切です。
私たち株式会社M-andがつなぐのは、所有権だけではありません。そこに住んでいた方の暮らし、ご家族の思い、そしてこれから始まる買主様の新しい生活です。物件の背景を受け取り、安心とともに次の方へ届ける。それが、私たちの「安心でつなぐ住まいのバトン」です。
ー第2章 ENDー
2026.09.20
第9話 物件のストーリーを、次の買主様へ
売却活動を始めても、すぐに買主様が見つかったわけではありません。お問い合わせをいただいても、市街化調整区域や農地、許可の説明をすると検討をやめる方がいます。住宅ローンや将来の建て替えを理由に、購入を断念する方もいました。誰にでも売りやすい物件ではなかったのです。
だからといって、難しい条件を小さく扱うことはできません。分かっている制限、確認した手続き、まだ確定していないことを、最初から丁寧に説明します。そのうえで私は、この家でどのような暮らしが営まれていたのかもお伝えしました。
おじい様が庭や畑を大切にしていたこと。家族が帰省すると、この家に集まっていたこと。相続人が遠方に住み、守り続けることは難しいけれど、できれば次の方に大切に使ってほしいと考えていること。それは物件を良く見せるためにつくった話ではありません。売主様から受け取った、この家の本当のストーリーです。
物件広告の面積や築年数だけでは、自分がそこで暮らす姿を想像できない方もいます。しかし、そこで営まれていた生活を知ると、「自分たちなら、ここでこんな暮らしができるかもしれない」と感じることがあります。
やがて、条件を理解したうえで、この環境と建物に魅力を感じてくださる方が現れました。価格だけでつながったのではありません。この家の過去の暮らしと、買主様が思い描くこれからの暮らしが、少しずつ重なり始めたのです。
-次回へ続く―
2026.09.19
第8話 売却価格から差し引かれる税金と費用
売却価格の見通しが立っても、その金額がすべて相続人の手元に残るわけではありません。相続した不動産を売却して利益が出れば、譲渡所得に対する税金を検討する必要があります。先代が購入したときの契約書が見つからず、取得費が分からないことも珍しくありません。
自分が住んでいた家ではないため、自己居住用の特例をそのまま使えるとは限りません。相続した空き家について利用できる制度もありますが、建物の築年数や利用状況、売却時期などの要件があります。税金については、物件ごとに税理士や税務署へ確認することが大切です。
さらに、行政書士への許可申請費用、測量や分筆、相続登記、残置物の撤去、建物の解体などが必要になる場合もあります。古い家だから解体して更地にすればよい、と簡単には決められません。解体後の利用や再建築、固定資産税への影響まで確認して判断する必要があります。
私がお伝えしたいのは、査定額の高低だけで不動産会社を選ばないでほしいということです。「いくらで売れるか」と同時に、「売るまでに何が必要か」「最終的にいくら残るのか」まで考えてくれるか。それが重要です。
調査内容と費用の可能性を説明し、売主様と相談したうえで、ようやく売却活動の方針が決まりました。ここから、この家の条件と物語を受け止めてくださる買主様を探します。
-次回へ続く―