2026.10.13
第8話 同じ広さの家でもローンの扱いが変わる
この違いは、言葉の問題だけではありません。
売却の進め方に関わります。
買主様が住宅ローンを利用する場合、金融機関は収入や返済能力だけでなく、購入する不動産も審査します。
違反建築の場合、物件を理由に融資を断られることがあります。家を気に入った買主様がいても、購入資金を用意できなければ、売買は進みません。
一方、既存不適格については、事情や資料を確認したうえで、融資を検討できる金融機関もあります。
もちろん、「既存不適格なら必ず借りられる」という意味ではありません。金融機関や商品、建物の状態、耐震性、担保評価などによって判断は異なります。
だからこそ、「建ぺい率が超えています」と伝えるだけでは足りません。
いつ建てられたのか。
どの規制が後から適用されたのか。
それを何の資料で説明できるのか。
この整理が、購入できる方の範囲や、売却価格の見通しにもつながります。
査定には、融資の入口まで考える難しさがあるのです。
次回へ続く。
2026.10.12
第7話 違反建築と既存不適格は大きく違う
ここで、今回の調査の中心となる二つの言葉を整理します。
一つは「違反建築」。
建てたときに守るべき基準に違反していたり、その後の増築などで違反状態になったりした建物です。必要な建築確認を受けていないなど、手続き上の違反もあります。
もう一つは「既存不適格」。
建築当時は適法だったものの、その後の法令改正や都市計画の変更などによって、現在の基準には合わなくなった状態です。
当時から守るべきルールを守っていないのか。
当時は守っていたが、後からルールが変わったのか。
ここが、大きな違いです。
今回の建物も、建ぺい率については、当時の適用関係をたどることで、違反ではなく既存不適格として整理できる方向が見えてきました。
ただし、建物のすべての問題が、それで解決するわけではありません。建ぺい率は既存不適格でも、後年の増築部分には違反がある、ということもあり得ます。
古いから違反。
確認番号があるから全部問題なし。
どちらも、簡単には言えないのです。
次回へ続く。
2026.10.11
第6話 その7㎡最初からあったのでは
建築確認時の面積と、現在の建物の面積を照らし合わせたとき、私は再び手を止めました。
ほぼ一致しているのです。
裁判所の資料では、登記面積との差である約7㎡を「増築」と捉えています。
しかし、建築確認時には、すでに現在に近い面積が記録されていました。
「その7㎡は、後から増えたのではなく、最初からあったのでは?」
新しい可能性が出てきました。
登記の記録に違いがあるのか。
面積の算定方法に違いがあるのか。
建築確認の計画と、完成した建物に違いがあったのか。
もっとも、面積がほぼ同じだからといって、形や構造まで同じだったとは断定できません。当初と同じ広さでも、別の部分を増減させた可能性は残ります。
裁判所の資料を軽く扱うつもりもありません。
ただ、別の公的な記録と食い違うなら、その理由を確認する必要があります。
「増築」という二文字で終わるはずだった調査が、終わらなくなりました。
建物は、まだ答えを教えてくれません。
次回へ続く。
2026.10.10
第5話 番号はあるけれど図面がない
さらに記録を追うと、当時の建築確認番号と、検査済証番号が確認できました。
建築確認は、工事前の計画について、建築基準法などへの適合を確認する手続きです。検査済証は、工事完了後の検査に合格したことを示す書類です。
「それなら、当時の図面を見れば分かるのでは?」
私も、その図面があれば、今回の謎を解く大きな手掛かりになると考えました。
ところが、50年以上前の建物です。
今回、役所では当時の申請書や図面を入手できませんでした。
番号などの記録はある。しかし、計画の細部を確かめる資料は残っていない。
「役所へ行けば、家の書類は全部そろう」
そう思いたくなりますが、古い建物では、それがかなわないことがあります。
また、当時の検査の記録があっても、その後の工事を含め、現在の建物全体が適法だと保証されるわけではありません。
得られた手掛かりは大切にする。
ただし、それだけで答えを急がない。
ここからは、残された面積の記録を、もう一度丁寧に比較していきます。
次回へ続く。
2026.10.09
第4話 今のルールがまだ適用されていなかった
「線引き」とは、都市計画で市街化区域と市街化調整区域を分けることです。
調査を進めると、この家は、その線引きより前に建てられていたことが分かってきました。
さらに、当時の区域指定や規制の適用関係をたどると、今回問題になっている建ぺい率・容積率の制限は、建築当時、この敷地にはまだ適用されていなかったという事情が見えてきたのです。
ここは、誤解されやすいところです。
「昔は建ぺい率という考え方がなかった」という意味ではありません。また、「線引き前の家なら、どこでも規制がなかった」という話でもありません。
この場所で、この建物が建てられた時点に、どのルールが適用されていたか。それを調べる必要があります。
家が後から大きくなったのか。
それとも、家は同じでも、後からルールが変わったのか。
見た目は同じ「現在の上限を超える建物」でも、その意味は大きく違います。
この家を見る目が、少し変わってきました。
次回へ続く。
2026.10.08
第3話 さて何から始めようか
建ぺい率はオーバーしているように見える。
裁判所の資料には、増築という記載がある。
しかし、建築当時を知る人から十分な話は聞けない。
さて、何から始めようか。
こういうときは、思いついた結論に資料を合わせるのではなく、資料がそれぞれ何を示しているのかを整理します。
登記は、どの面積を記録しているのか。
建築確認では、どんな建物が計画されていたのか。
裁判所の資料は、何を根拠に現況を説明しているのか。
そして、実際の建物はどうなっているのか。
建ぺい率に使う「建築面積」と、登記や容積率で見る「床面積・延べ面積」も、分けて考えなければなりません。床面積の差だけで、建ぺい率超過の原因まで分かるわけではないのです。
数字を並べて、日付を並べて、建物の形と照らし合わせる。
私たちの調査は、家に残された手掛かりから、その歴史を解読する仕事でもあります。
そして行政の記録をたどるうちに、重要な言葉が出てきました。
「線引き前の建物」
次回へ続く。
2026.10.07
第2話 裁判所の資料には増築と書いてある
今回の調査には、もう一つ難しい事情がありました。
競売に関する資料を読み解く必要があったのです。
通常の売却相談なら、所有者様に「いつ増築しましたか」「当時の図面はありますか」と尋ねられます。しかし今回は、建物の歩みを直接、十分に聞き取ることが難しい状況でした。
頼りとなるのは、登記や行政の記録、裁判所の資料、そして現地です。
資料を読み進めると、登記されている床面積より、現況の床面積が約7㎡大きいことが分かりました。裁判所の資料では、その差を「増築」と捉えていました。
約7㎡。畳に換算すれば、およそ4畳ほどです。
「この部分を後から広げたので、建ぺい率を超えたのだろうか?」
一見、筋の通った説明です。
けれど、「登記より広い」という事実と、「後から増築した」という経緯は、同じではありません。
この7㎡は、いつ、どこで生まれたのか。
建物の謎は、面積の差へと広がっていきました。
次回へ続く。
2026.10.06
第1話 この家 建ぺい率を超えています
不動産の調査をしていると、数字を見た瞬間に手が止まることがあります。
今回の主役は、50年以上前に建てられた一軒の家。
資料から現在の建ぺい率を確認すると、目の前の建物は、その上限を大きく超えているように見えました。
建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積の割合です。簡単にいえば「敷地のうち、どれくらいを建物で覆えるか」というルールです。
「これは、違反建築なのだろうか?」
売却を考えるうえで、見過ごせない問題です。建物の見た目が良くても、法律上の問題があれば、買主様の住宅ローンや将来の建て替えにも関わってきます。
ただ、ここで一つ引っ掛かりました。
この家が建てられたのは、今から半世紀以上も前。
その頃も、今と同じルールだったのでしょうか。
現在の数字を当てはめただけで、「違反です」と結論を出してよいのか。
まずは、この家が生まれた時代へ、調査の時計を巻き戻すことにしました。
次回へ続く。
2026.10.04
第10話 今日もAIと揉めながら
AIは、単なる道具なのでしょうか。
それとも、仕事仲間なのでしょうか。
おそらく、どちらでもあるのだと思います。
電卓や表計算ソフトとは違い、AIはこちらの考えを聞き、文章を提案し、時には意見まで返してきます。
しかし、人間の仕事仲間とは違い、気持ちや責任感があるわけではありません。
それでも、長くやり取りを続けていると、どうしても相手がいるような感覚になります。
良い文章ができれば、
「今回は良くできました!」
と声を掛けたくなります。
同じ間違いを繰り返せば、
「前にも言いましたよね?」
と問い詰めたくなります。
考えてみれば、少し不思議な関係です。
ただ、AIと揉めることは、決して無駄ではありませんでした。
私が何に違和感を持ったのか。
どこを大切にしているのか。
お客様へ、どのような言葉を届けたいのか。
AIへ説明しようとすることで、自分の考えが少しずつ明確になっていきます。
AIが間違える。
私が指摘する。
AIが理由を説明する。
その説明に私が納得できず、さらに問い詰める。
そんなやり取りを繰り返しながら、最初よりも良い文章が出来上がっていきます。
おそらく、これからも私はAIと揉めるでしょう。
そして、そのたびにAIは、原因を丁寧に説明し、改善方法を長々と話したあと、結局はこう言うのだと思います。
「申し訳ありません。以後、気を付けます」
さて、今回は本当に気を付けてくれるのでしょうか。
今日も私とAIの大冒険は続きます。
ーENDー
2026.10.02
第9話 完璧ではないから、付き合い方が見えてくる
AIが間違えることを知ったからといって、AIが仕事で使えないわけではありません。
むしろ私は、AIを使い始めてから、これまで以上に多くの文章を作れるようになりました。
お客様へのメール。
不動産に関する説明文。
契約書や覚書の案。
BNIのプレゼン原稿。
そして、この「M-andの大冒険記」も、AIとのやり取りを通じて生まれています。
私一人では形にするまで時間がかかる考えを、AIは短時間で文章にしてくれます。
私が違和感を伝えれば、その理由を整理し、別の案を出してくれます。
これは非常に便利です。
しかし、便利であることと、すべて任せられることは同じではありません。
AIが作った文章は、最後に人間が確認する。
絶対に変えてほしくない部分は、明確なルールとして伝える。
重要な条件は、その都度確認する。
そして、AIが提案した内容を、そのまま正しいと思い込まない。
AIを「絶対に間違えない機械」として扱えば、間違えるたびに腹が立ちます。
一方で、得意なことと苦手なことがある仕事相手だと考えれば、付き合い方が見えてきます。
不思議なことに、AIへ細かなルールを説明する過程で、私自身の仕事の基準も明確になりました。
なぜ、この挨拶が必要なのか。
なぜ、この件名へ統一するのか。
お客様に、どのような行動を取ってもらいたいのか。
AIの間違いを直しているつもりが、実は私自身の仕事を整理していたのかもしれません。
次回へ続く。