2026.09.10
第2話 相続した本人も、物件のことを知らない
相続不動産の査定で、最初にぶつかることがあります。それは、現在の所有者である相続人が、その物件についてほとんど知らないということです。もちろん、責められることではありません。子どもの頃に祖父母の家へ遊びに行っただけ、独立してからは年に一度も帰っていない。そのような方が、ある日突然、売主の立場になります。
雨漏りをしたことはあるのか。過去に増築していないか。給排水管はどこを通っているのか。隣地との境界について話し合ったことはないか。私が尋ねても、「分かりません」という答えが続きます。しかし売却する際には、相続人も売主として、知っている事実を買主様へ伝えなければなりません。知らないから何も確認しなくてよい、とは言い切れないのです。
そこで私は、建物の状態だけでなく、その家でどなたが、どのように暮らしていたのかを聞いていきます。おじい様は農業をしていたのか。お父様はこの家で何年暮らしたのか。離れや物置はいつ頃つくられたのか。断片的な記憶でも、調査の手掛かりになることがあります。
同時に、それは物件のストーリーを知る時間でもあります。庭の木を大切にしていたこと、家族が集まる縁側があったこと、畑で採れた野菜を近所へ配っていたこと。査定書の数字には表れませんが、その家には確かに暮らしがありました。
分からないことを分からないままにせず、記憶と資料を一つずつつないでいく。相続不動産の査定は、そこから始まります。
次回へ続く。