2026.09.20
第9話 物件のストーリーを、次の買主様へ
売却活動を始めても、すぐに買主様が見つかったわけではありません。お問い合わせをいただいても、市街化調整区域や農地、許可の説明をすると検討をやめる方がいます。住宅ローンや将来の建て替えを理由に、購入を断念する方もいました。誰にでも売りやすい物件ではなかったのです。
だからといって、難しい条件を小さく扱うことはできません。分かっている制限、確認した手続き、まだ確定していないことを、最初から丁寧に説明します。そのうえで私は、この家でどのような暮らしが営まれていたのかもお伝えしました。
おじい様が庭や畑を大切にしていたこと。家族が帰省すると、この家に集まっていたこと。相続人が遠方に住み、守り続けることは難しいけれど、できれば次の方に大切に使ってほしいと考えていること。それは物件を良く見せるためにつくった話ではありません。売主様から受け取った、この家の本当のストーリーです。
物件広告の面積や築年数だけでは、自分がそこで暮らす姿を想像できない方もいます。しかし、そこで営まれていた生活を知ると、「自分たちなら、ここでこんな暮らしができるかもしれない」と感じることがあります。
やがて、条件を理解したうえで、この環境と建物に魅力を感じてくださる方が現れました。価格だけでつながったのではありません。この家の過去の暮らしと、買主様が思い描くこれからの暮らしが、少しずつ重なり始めたのです。
次回へ続く。